だって、もうこれが最後みたいじゃん。

「やだ、行かないで」

その時、信じられない事が起きた。

ドキンと一際鼓動が跳ねる。

だって、だって。

精悍な頬を斜めに傾けて、先輩が私の唇にキスをしたから。

触れるだけのキスが、少しだけ深くなって、私はその甘さと不安に身体が震えた。

な、んで……?

どうしてと尋ねたかったけど、それは叶わなかった。

先輩が私から離れて身を翻し、ドアの向こうに姿を消してしまったから。

私の耳元で『誕生日おめでとう』という言葉を残して。

「先輩っ」

急いでビルの外に出るも、先輩の姿はもうどこにもない。

「先輩……」

呟きながら、私は無意識に唇に触れた。

残された先輩の感覚が、恋しくて。