恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》

その時、私は分かった気がした。

この人は……翠狼は、先輩が嫌いなんじゃなくて……。

殺したいなんて嘘だ、多分。

彼は、悲しいんじゃないだろうか。

確かに……人狼じゃない私に、王になれなかった翠狼の胸の内は計り知れない。

幼馴染みで仲の良かった二人がこうなってしまった歴史を、私は知らない。

そう思うと、何だか偉そうに意見してしまった事を後悔した。

「翠狼……ごめん」

翠狼が、訝しげに眉を寄せた。

「あなたは……悲しいんだね。悲しくて苦しくて、その思いから身を守る方法が分からなかったんだとしたら……偉そうな事を言ってごめん」

翠狼が、軽蔑したように私を見て浅く笑った。

「フッ……俺を怒らせたことを後悔してるのか。殺されたくないからそんな事を」

「確かに殺されたくはないけど、そうじゃない。もしも私があなたの立場だったらって考えたの。
もしも、私ならどうだろうって。
そしたら多分、めちゃくちゃ悲しかったんじゃないかなって。
人狼王になるために、幼い頃からそれだけを目標に生きてきたんだとしたら、その夢が破れた時、私なら凄く悲しい。
立ち直るのに何年かかるかなんて予想できない。それなのに私、先輩の事ばかり考えてた。
……ごめん」