【天翔】

僕は、じっと彼女が出ていった方を見ていた。

「あれあれー?ひょっとして天翔、望美ちゃんのこと気になるの?」

「そ、そんなことないよ!」

僕は、慌てて鞄を掴む。

「そ、それじゃぁ僕も先に行くね!」

僕は、逃げるように美術室から飛び出す。

「ちょ、天翔!」

若菜の声が後ろで聞こえたけど、僕は振り返らず校門へと向かった。

「はぁ……はぁ」

僕は、校門の外を見回す。

「流石にもう居ないよね」

若菜が僕が望美さんの事を好きなのかとからかってくるけど。

正直そうなのか分からない。

会ってまだ一ヶ月も経ってないし。

でも、彼女を見ていると、自然と僕も笑顔になれた。

望美さんは、絵を描く楽しさを知っている。

そんな彼女が羨ましいとたまに思う。

「いや!そこで好きとかは別だよ!」

左右に首を振る。

すると、グラウンドの方から聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれは?」

僕は、直ぐに彼女だと思った。

そして、何故か隠れてしまった。

「それでね、今日美術室でね―――」

隣には知らない男がいた。

「彼氏……か?」

二人は、凄く楽しそうに話していた。

それを見た僕は、胸が痛んだ。

「なんだろう、この感じ……」

僕がこの気持ちに気づくのは、まだ先のことだった。