【アク】

『あーあ、つまんないの…』

僕は、鏡で望美の様子を見ていた。

『事故に合わせたまでは良かったけど、まさか意識が戻らないなんて』

でも、これはこれで面白いかな?

奈津のあの表情…。

僕が今一番見たかった表情だ。

『人間で遊ぶのって、楽しいなぁ』

でも、一つ引っかかることがあった。

それは、ヒュプの気配が消えたことだった。

ヒュプの気配を探って探してみたけど、ヒュプの存在は感じられない。

それに、あの奈津を見る限り、ヒュプの術は完全に解かれている。

(誰かがヒュプを殺したのか?)

妖精を殺すことなんて、普通の人間には出来ない。

一体誰が…。

まさか、僕の知らないところで誰か動いているのか?

だとすると、僕のことを知っている存在になる。

でも、僕のことを知っている人間なんていない。

(ま、いいか…)

ヒュプ一人居なくなったところで、僕の計画に支障はでない。

ヒュプ以上の力を持つ子達を、僕は後に控えさせているし。

特に、あの七人兄弟姉妹たちはね。

僕は、にやりと笑う。

『ごめんねヒュプ、君の力は欲しかったけど、もう要らないや』

僕は、低くそう答える。

『アク』

『なに?オルド』

僕は、鏡を隠してオルドに近寄る。

『お仕事お疲れ様オルド、僕に何か用事?』

オルドは、じっと僕を見下ろしていた。

『…いや、何でもない』

オルドは、わしゃわしゃと僕の髪を撫でる。

『オルド辞めてよ、髪が乱れる』

『悪いな、それじゃあ俺は戻るから』

『えー、もう行っちゃうの?』

僕は、頬を膨らませた。

最近オルドもお母様も何かと忙しそうなんだよね。

何をやっているんだろう?