あの事件から二ヶ月――

季節は夏になった。

蝉の鳴き声が校庭内で響く中、俺はサッカーの試合に来ていた。

「奈津!」

「はい!」

俺は、先輩からボールを受け取り、ボールをゴールまで運ぶ。

しかし、相手チームに簡単にボールを取られた。

「くそっ!」

「奈津くん、落ち着いて」

翔が俺の肩に手を置くが、俺はそれを払い除けた。

「焦るのは分かるが、もう少し周りを見ろ」

「分かってるよ!」

俺は、玲緒に八つ当たりをした。

自分でも分かっている。

俺一人が焦ったところで、試合の流れは変わらない。

俺は、自分を落ち着かせて、残りの後半戦に臨んだ。

結果は2‐1でギリギリ勝てた。

でも、俺は自分のプレイに納得いかなかった。

「このままの調子だと、奈津くんを試合には出せないです」

水無月が直接俺に伝えてきた。

「教えてくれてありがとう」

俺は、その場から逃げるように水道に向かった。

「きっと、望美さんのことで悩んでるんだね」

翔は、水分をとりながら玲緒にいう。

「…仕方ないさ」

「奈津くん…」

「気にするな有水、直ぐにいつもの奈津に戻るさ」

新は、有水の頭を優しく撫でた。

水道のある場所に向かった俺は、思いっきり水を出して頭から被る。

『奈津、落ち着いたか?』

「なんとかな…」

『どうするんだ?このままだと三日後にある先輩達の最後の大会に、お前は戦力外になるぞ』

「……」

そんなの、俺がよく知っている。

部活のことを集中しようとするんだけど、望美のことが頭から離れない。

もしかしたら、目を覚ましたかもしれない。

容態が急変したかもしれない。

もしかしたら、このまま…。

『おい!聞いてるのか奈津!』

「あ!ごめん」

『お前最近ボーッとすること多いぞ!どうしたんだよ!』

「ハヤテは、心配しなくてもいいよ」

『そんなわけにはいかない!』

ハヤテは、俺の目の前に来ると指をさした。

「理由は、なんとなく察しはできる。だけどな、そんないつまでもうじうじした奈津を、望美が見たらなんて思う!」

その言葉に、俺の肩が少し上がった。