この中に、望美に輸血出来る人はいない。

AB型RH-は、珍しい血液型だ。

奈々美さんなら出来たかもしれないけど、奈々美さんは、今この場にいない。

「どなたか!」

「俺なら出来ます」

そこには、奇跡が立っていた。

「き、奇跡!」

「だ、誰だ?」

奇跡は、俺たちを無視し看護師に言う。

「俺もAB型RH-だ。好きなだけ持ってけ」

「感謝いたします!」

奇跡は、看護師と一緒に集中治療室の中に入って行った。

「奇跡……」

それから、望美の手術は長時間行われた。

手術を終えた医師が、集中治療室から出てきた。

「先生!望美は!」

医師は、マスクを外すと辺りを見回す。

「望美さんのご家族は?」

「奈々美さんは、今仕事で県外に出張中で…」

「代りに俺が話を聞きます」

俺は、医師の前に立つ。

「分かった。来たまえ」

俺は、医師の後ろに続いた。

医師の部屋に案内され、話を聞く。

「一命は、取り留めました」

「良かった…」

ひとまず、これで安心だ。

「しかし…」

「なんですか?」

まだ、何かあるのか?

「彼女は、強く頭を打っています。もしかしたら、今後後遺症が残るかもしれません」

「そ、そうですか…」

そんなことは予想していた。