「どこか遠くに行くのか?」

奈津の質問に奇跡は頷く。

「とても遠いところだ」

奇跡は、たこ焼きをひっくり返すところを見学中のシンクに目を向ける。

「多分、この町にはもう帰ってこないと思う」

「そんな…」

じゃあ、これが奇跡達とはお別れなんだね。

「……」

そんな私を見かねた奇跡が、私の頬をつねる。

「い、いひゃい!」

「お、おい奇跡!」

そして、パッと離手を放す。

「い、いきなりなに?」

何気つねられたところが痛い。

「なにしけた面してんだよ。直ぐにまた会えるって」

奇跡は、そう言い前に向き直る。

「未来…でだけどな」

「今、なんて?」

奇跡の最後の言葉が小さくて聞き取れなかった。

「別に、なんでもない」

その時の表情は、今でもよく覚えていた。

私達より年下なのに、凛々しい表情をしていた。