『有水!』

「――!」

そのとき、フレイアの顔が浮かんだ。

『もう、駄目だよ有水。温かくして寝なくちゃ』

『有水、朝だよ』

『有水、これ有水に似合うよ』

『有水』

『有水――』

私の中で、フレイアとの思い出が流れる。

『私は、ずっと有水の傍に居るよ。有水が、心から幸せを掴むその日まで』

私の頬に涙が伝った。

それを見た奈津くんは、驚いて目を見開く。

「私が、心から欲しがってるものは…」

そして、新の姿が浮かぶ。

「有水は、たった一人の俺の妹だ」

「お前のためだ」

「有水!」

ママが出て行ったあの日、新は言ってくれた。

「離れてても、俺はお前の味方だからな」

何で忘れていたんだろう。

私は、手で顔を覆ってその場から走り出した。

「おい、水無月!」

奈津くんの声がけ後から聞こえた。

でも、立ち止まることなんて出来ない。

「私が、本当に欲しいものは…」

コンクリートに、一つの雫が落ちる。

「フレイア…、新……」

私が欲しかったものは、心から友達と呼べる存在と、私を見ていてくれる存在。

そして、私を愛してくれる存在。