【アク】

『なんか、人間界で面白い子見つけたなぁ』

僕は、人間界が見える鏡を見ながら、足をぶらぶらとさせていた。

『ああ言う子の妖精で遊んだら、楽しいかな?』

僕は、望美と呼ばれた女性を鏡に映す。

『へえ、この子の妖精凄い力持ってるね』

有水って子は、望美が嫌いで、その恋人の奈津って人を奪おうとしている。

『なんか、面白そう』

僕は、ある妖精を一人呼ぶ。

『な、何?アク』

僕の弟のヒュプは、びくびくしながら僕の元に来る。

『これからさ、人間界に遊びに行ってきてほしいんだ』

『だ、駄目だよ!お母さんからは、まだ外に出ちゃ駄目って言われてるし』

『大丈夫だよ。バレないように僕がなんとかしとくから。あ、もしかして――』

僕は、ヒュプを睨みつける。

『僕のお願いが聞けないの?』

『ひぃ!』

ヒュプは、身体を縮こませる。

『僕の言うこと、聞けるよね?』

『う、うん』

ヒュプは、恐る恐る僕を見る。

その目で見られると、心の底がぞくぞくして、僕は快感を覚えられる。

『じゃあ、この有水って子のところに行ってよ』

『有水?』

僕は、ヒュプに鏡を見せる。

『この子。それで、一つやってもらいたい事があるんだ』

『な、なに?』

『それはね―――』

僕は、ヒュプに耳打ちをして、目の前の扉を開く。

『ここから人間界に行けるから』

『お、オルドに怒られるよ…』

『大丈夫だから。これは、オルドの力を真似て作った、僕専用の扉だから』

ヒュプを人間界に送り、僕は鏡に向き直る。

『この子が考える恋ってものが、どんなに脆いものなのか、拝見させてもらうよ』

暗闇の中、僕の低い声だけが響いた。