「行ってきます」


「おう!頑張ってこいよ!」


全力で見送られる。

こうしてほぼ毎日、高島に送られて出かけている。



(いるかな)


気になって振り向くのが癖になりそう。

不思議そうな表情を見せて、高島は小さく首を傾げた。


(良かった。いてくれた…)


仕事に行く前だから佇んでいるだけ。

それは分かっているけれど嬉しい。


ウキウキすると跳ねたくなる。

子供の頃と同じ様に軽くステップを踏みながら仕事場へ向かった。




帰国子女の集まる女子学園。

5年前から勤務しているこの学校は、今日から中間考査が始まる。



「仙道さん、ご機嫌ね」


職員室の机で試験準備を始めたところで声をかけられた。


「これから試験が始まるというのに、そのニコニコ顔は何!?」


同僚の音無夏織(おとなし かおり)さんはキュッと頬を摘んだ。


「緩んでた?」


「緩んでた、緩んでた!グダグダよ。鏡で見せようか?」


ゴソゴソとバッグの中を探る。


「いい。眉間に皺作っておくから」


わざとらしく顔を引き締める。

その表情が面白かったらしく、音無さんはプッと笑いを吹き出した。


「何、その顔!」


あはは…と笑い声が立つ。


「引き締めたつもりなんだけど」


「引き締まると言うより『変顔』に近いよ!」


普段通りにしとけば?とアドバイスまでもらった。