歩き出して気がついたこと。
やはりルス……彼も足音が聞こえない。
まるで私1人だけ。
こういった違和感と、先ほどのなんとも言い難い違和感が繋がっているような気がするのは、何故だろう。
その時、私の足元を何かが横切る。
また猫かな、そう思って視線を落とす。
…………………息が止まった。
私の足元。
長時間森を歩いていたせいで土が固まった靴、その横に。
人の、手。
血がこびりついた、紅い緋い、手が。
どくん、どくんと心臓がなるのを感じる。
………………違う、違う、私は。
この手を、この手の温もりを、知ってる?
息を飲んでぐっと目を瞑る。
そうしないと、未だ掴めない記憶に押しつぶされそうだった。
今まで何も無かった場所に急に出てくるわけがない。
きっと、きっと見間違い。
そう念じつつ瞼を持ち上げると、そこには、緋い花びら。
しゃがみこんでそれを拾うと、薔薇の花びらだった。
視線をあげれば、薔薇の花瓶。
廊下に飾られた薔薇の花びらが落ちていたようだ。
ほっとした反面、同時に記憶が引いていくようで。
思い出せそうだった。
ただ、それが恐怖からくる記憶だと思うと、思い出すのが怖いと思う。
私は立ち上がって、前方で待ってくれている3人に微笑む。
しっかりしよう。
焦ったってどうしようもない。
私は、私。
思い出せなくたって…。



