足音が響く廊下を、深呼吸しながら進む。
どのくらい進んだのかわからないけれど、すごく遠く感じる。
不意に後ろを振り返ると、明かりの少ない廊下は真っ暗で。
ゾッと背筋を何かが通り抜ける感覚に、ぐっと手を握る。
「ミズキちゃん?」
セイトの声にハッと振り返ると、彼らがある扉の前で待っていた。
「ここがリビング。ここにいると思うよ」
にこ、と笑った彼の顔が、燭台の焔で赤く照らされる。
なんだか赤に縁があるな、と思いつつ、リッカが開いた扉をくぐる。
そこは40畳くらいのリビングだった。
中央には大きなテーブル。
それを囲むように、3人がけのソファと、1人がけのソファが2つ。
左に目をずらすと、窓辺に長いソファが1つ。
右には机と椅子、そしてチェス盤が備え付けられた、極めてシンプルな部屋だった。
そして、左側の長ソファに人の姿を見つけた。
ソファに寝そべるその人は、私たちの姿を見てゆっくりと起き上がった。
月明かりに照らされたその姿は。
青い髪は襟足が長く、瞳の色はここからではわからないけれど、深い色であることはわかる。
黒っぽい外套のようなものを羽織り、高身長であることはわかるけれど、体のラインはわからない。
そして、リッカたちと同じく美しい顔であるけれど、その顔にはまったく表情がなく、ピクリとも動かない。
そのせいか、冷たい人形のような印象を受ける。
私は彼にじっと見られているのに気がついて、慌てて頭を下げた。
そしてそっと顔を上げると。
…………………………え?
彼が少しだけ、辛そうな表情を浮かべた気がしたのだ。
あぁ、どうして。
どくどくと、心拍数が増える。
痛いほどに、心臓が。
「………………ぁ……」
「彼はマオ。無愛想ですが、悪い人ではありませんよ」
私の動揺に知ってか知らずか、リッカがにこやかに紹介してくれる。
…………マオ、マオ。
リッカ、セイト、ルス、マオ。
どうして、どうして?
何故引っかかるの。
私は、彼らを知ってるの?
彼らは、私を知ってるの?
「……………悪かったな、無愛想で」
耳触りのいい声が鼓膜を震わせる。
ゆっくりと私に近づいた彼は、私を見つめるものの、何も言わなかった。
その時、後ろのドアが開く音がした。
そして、男性が1人お盆を手に入ってくる。
「……お茶、持ってきた」
ヘタをすれば聞き逃してしまいそうなほどの小さな声で告げた彼は、私にお茶を差し出した。
セイトより少し年下くらいに見える彼は、けれど目元を長い前髪で隠していて、表情は伺えない。
お礼を言ってお茶を受け取ると、彼は少しだけ微笑んだ。
「……………ルイです」
「ミズキです……」
言われたのが名前だと気がついて慌てて名乗ると、彼が少しだけ顔を上げた。
長い前髪の隙間からかすかに覗いた瞳は、美しい翡翠色だった。



