「……んっとに、強情だな。もう俺、いい子ぶんのやめた」
不機嫌そうな声とともに、私の顔に彼の影がかかる。
「え、ちょっと、待っ――――ンッ!」
私の抵抗なんてものともせずに、荒々しいキスで私の唇を塞いだ彼。
よろめく私は彼と壁との間に挟まれて、溺れたように苦しげな声を上げる。
「そっちからキスしておいて、そのままなかったことにできるほど俺大人じゃねぇから」
怒ったような焦ったような、掠れた声で言った彼は、それから至近距離で私を瞳に映しながら、こう言った。
「アンタの心、開かせてみせる……つーか、こじ開ける。絶対」
大きく心臓が脈打って、私は目を見開いた。
どんなに突き放そうとしても諦めようとしない彼に、頑なだった心の一部から、忘れかけていた感情があふれる。
本当は、きっと私。こんな風に、強引にでも心を攫ってくれる人を待っていたんだと思う。
彼のような、真っ直ぐな人に、錆びついた私を溶かして欲しかったんだ――。
そう思ったら、なぜだか急に、喉が渇きを覚えて。
「……ねえ、お店に戻りたいな」
キスの余韻で潤む瞳を彼に向け、私は思いついたように、そんなおねだりをしてみる。
「え?」
「……四杯目のモヒート。あなたと飲みたくなったから」
それを飲んだら、明日遅刻して上司に叱られるかもしれない。
だらしのないお局だと、後輩たちに笑われるかもしれない。
それでもいい。きっと、今夜は楽しい時間になる。