梅雨も明け、本格的な夏にさしかかった七月二週目の日曜日、午後八時頃。

一般的な会社に勤める社会人が、明日から始まる新しい一週間を思って憂鬱になる時間帯。
私はいつもと同じように、お気に入りのバーに入り浸っていた。

勤めている会社にほど近い雑居ビルの一階に入る、モヒートバー【Mint Garden】

一人でも入りやすい小ぢんまりとした店内のカウンターに座り、流れる心地よい音楽の隙間に、傾けたグラスの中で鳴る氷の音を滑り込ませながら、きりりと冷えたモヒートを啜る。

そして爽やかなミントとライムの香りが鼻から抜けるその瞬間が、おそらく人生で一番至福の時かもしれない。

なんて、いつからか毎年おひとり様歴を更新し続けているアラサーOLの私は、すっかり“至福”のハードルが下がってしまっているみたい。

わざわざ日曜の夜を狙ってくるのも、金曜や土曜の夜では同じ会社の若い子たちに会ってしまいそうだからだ。

好きで一人で飲んでいたとしても、哀れみの目で見られるということくらいは、普段の職場の空気でわかる。

後輩たちは親切なのか嫌味なのか、合コンの誘いを隔週のペースで持ちかけて来るし、上司は気を遣っているのか、恋愛や結婚の話題に触れて来なくなった。

恋愛は特別したいわけでも、したくないわけでもない。

平日はただ会社で黙々と仕事をして、休日は家のことをしたり、一人で出かけたり……
時には友達と会うこともあるけれど、結婚していたり、さらに子供も持っている友達のことはなかなか誘いづらく、連絡を取ることを躊躇している間に、そうでない立場は私だけになってしまった。

……だから。今日は、“特別な”日曜であるにもかかわらず、一人でバーに来て、“至福”を味わっているというわけ。