憑代の柩

 だが、衛は何も言わない。

「それにしても、衛さんが運転するの不思議な感じですよ」 

 後ろでふんぞり返ってそうだと思ったのだ。 

 すると、衛はこの上なく厭そうな顔をする。

「お前は僕を何も出来ないお坊ちゃんだと思ってるだろう」

「そんなこと思ってませんよ。

 だって、会社取り仕切ってるんでしょ。

 凄いじゃないですか」

「それぞれ任せる人間をうまく選んでるだけだ。

 僕が全部仕切ってるわけじゃない」

「それは凄い才能だと思いますよ。

 結局、みんな衛さんに付いてってるわけだし。

 意外と人望もあるんですね」

 明るい初夏の道を見ながら、そう微笑んだ。

 衛はいつものようにすぐ言い返して来るかと思ったが、黙っている。

 表情が読めないから恐ろしいんだって、と苦笑いした。