憑代の柩

「要先生は、口が悪いですね」

「何かあいつに言われたか?」

「言われたわけじゃないです。あと、先生はカルト信者ですか?」

 衛は眉をひそめ、
「そんな話は聞いたこともないが」
と言う。

「どうした。
 自分は実は死んでて、要が蘇らせたとでも」

 そう言い、衛は笑いかけたが、その笑いを止めた。

「要先生はそんな奇跡の手を持つ男なんですか?」

「あいつの専門は整形だ。

 ま、なんでも小器用にはこなすがな。

 望んで僻地に勤務してたこともある物好きなんで、専門外のことも大体できるようだ」

「そうなんですか」

 そんなボランティア精神があったとは意外だ、と思っていた。

「要先生、ずっと手許でこちらに対する悪口と、呪文っぽいものを書いてたんですよね」

「お前に見える位置で書くとは間抜けだな」

「いや、隠してはいましたよ。

 ドイツ語だったし、カルテの一部に見えないこともなかったかな」

 なんとなく流れで乗っていた衛の車の向かう方角がアパートとは違う気がして訊いてみる。

「どこに行くんですか?」