憑代の柩


 

 外の廊下に出、歩き出すと、身軽な身体に爽やかな五月の風が吹きつけてきた。

 少し前を行く要からは微かに病院の匂いがしていた。

 消毒薬や器具の匂いとでも言うか。

 それが心地よい風に混ざっている。

 そうか。

 あのとき、懐かしいと思ったのは、この匂いだったか。

 病院特有の匂いをそう思ったのか。

 何故だろうなと思う。

 しかし、風も陽気も心地よく、妙な解放感を感じて、

「素手で出かけるの、子どもの頃以来です」
と要の背に向かい、笑いかける。

 記憶はないが、そんな気がする。

「手ぶらだろ」
と言い直されたが。

「大人になると、余計なものを背負うようになるわけだ」
と要は皮肉に嗤った。

 確かに、年をとればとるほど、手荷物が増えていくような気がした。

 化粧なんかしなくても、昔は素顔で歩けたんだろうになあ、と思う。