憑代の柩

 控え室で、彼に言った。

『私は八代探偵事務所に居ます。
 ご依頼があれば、いつでもいらしてください』

 馨――、と衛が呼びかけてくる。

『僕が執念深いこと、忘れるなよ』

 感情を押し隠すように、こちらを睨んで言うその顔を、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 それでも今はまだ、彼の側に行くことはできない。

 助手席で、靴のまま、膝を抱え、丸くなる。

 遠ざかる衛の姿を見ないように。

「だから……汚れるだろ、座席」

 はい、と小さく私は答えた。

 夢を見る。

 あの、初めて住んだのに懐かしい匂いのする町。

 夕暮れの商店街を衛と手をつなぎ、歩く夢。

 それは私の夢であり、奏の夢であったのかもしれなかった。

「莫迦じゃないのか。

 お前はもうちょっと神経が太いと思ってた」