憑代の柩

 変色した近代文学の文庫本だ。

「あ~、これ、昔、読みました。

 えーと、図書室で借りて。

 図書室――

 何処のだっけな?」
と呟く。


 思い出せなかったが、ぼんやりと学校のものらしき図書室が見えた。

 こういう記憶もないわけか。

 何かのヒントになったかもしれないのに。

 そう思いながら、一歩出たドアの向こう、近くのアパートの窓に反射する夕陽が眩しく、ただ、目をしばたいて、それを見つめた。

「そういえば、この部屋、前の住人だかなんだかの霊が出るそうだが」

 ふいに衛がそんなことを言い出した。
「えーと。
 今、北側の窓の下。

 廊下の隅にしゃがんでた男の人ですかね?」

「見えたのか……」

 此処で服毒自殺を図ったのだと衛に訊いた。

「それで部屋が安かったとあづさが

「どうして、引っ越させなかったんですか」