憑代の柩

「正直言って、わからないと思ったこともあった。

 だけど、彼女を見ているだけで、今までに無い感情を覚えたし。

 僕は、彼女と逢うまで、自分がそんな卑怯なことをする人間だとは知らなかった。

 そこまでのことをしたいほど、執着する何かに巡り会うこともなかった。

 でも、今になってわかったよ。

 僕は咲田馨が好きだったんだと」

 衛は顔を上げ、この顔を見つめてくる。

「そうですか。
 答えが出てよかったです」
と微笑む。

 衛の手が私の手を掴む。

「あのとき、本当に馨に手を出したのかと訊いたな。

 僕は――

 馨を脅しておいて、キスしただけで、逃げ出したんだ」

 ……笑うな、と赤くなった衛は言う。

 手首を掴まれたまま、私は俯き、笑っていた。

 でも、なんだか泣きそうだった。

「いや、私ね。
 やっぱり、貴方が好きみたいですよ」

 衛がぎょっとした顔をする。