「大丈夫」
と私は優しく衛の背に触れた。
「お母様は亡くなってはいらっしゃいませんよ。
元気に毎日、私の首を絞めにいらっしゃってるじゃないですか」
と微笑みかけると、衛は困ったような顔をしていた。
ただ、最愛の息子に殺されかけたショックで、心を無くしているだけだ。
「こうして考えると、咲田馨は疫病神ですね。
彼女さえ居なければ、誰も不幸にはならなかった」
敢えてそう言うと、衛は俯いたまま、首を振る。
「僕は――
彼女に逢わなければよかったとは思わない。
彼女に逢って、それまでの代わり映えのない毎日がひっくり返る想いがした。
彼女はいちいち、人と反応が違っていて。
受験が終われば、彼女は居なくなる。
僕は、息が詰まりそうな毎日に戻りたくなかった」
「じゃあ、貴方は彼女を好きだったわけじゃないんじゃないですか?
ただ、逃げ場を探していて、それが彼女という存在だっただけなんじゃ」



