佐野あづさの部屋は、華やかな衛の婚約者のそれとも思えないほど、質素だった。
ふと気づき、振り返ると、衛は開けたままのドアに縋り、何か考え事をしている。
「入らないんですか?」
と訊くと、衛は縋ったまま顔を上げ、
「そう簡単に女の部屋に入るもんじゃないだろう」
と言った。
「でも、此処、私の部屋っていうより、貴方の婚約者の部屋じゃないですか」
気軽に女の部屋には入らないようにしてるのだと衛は言った。
「どうしてです?」
と言いながら、片隅に、先程衛から受け取ったたいしたものの入っていないボストンバッグを置く。
「ちょっと部屋に入っただけで、妊娠したとか責任をとれとか言い出す女が居るからだ」
それを聞いた私は小首を傾げた。
「どうして、そこまでして、貴方と結婚したいんですかね?
なんだかめんどくさい生活が待ってそうですけど」
また余計なことを言ってしまったようだ、と衛の顔を見て気がついた。
「し、支度して来ます~っ」
そう言いながら、洗面所に向かう。



