憑代の柩

「いや。
 顔は違えど、彼女は佐野あづさを名乗っていた。

 遺産目当てにあづさを殺そうとしたか。

 あづさ絡みの怨恨か。

 或いは、あづさを彼女が殺して入れ替わったと思った人間が――」

「復讐ですか?

 そういえば、あづさ側の人間が、既に一人殺されてますよね。

 奏さんに寄って。

 その復讐の線もありましたね」

 今、横をすり抜けた白い車が、衛のそれのような気がした。

 そう思って見るからそう見えたのだろうと思いながらも気になった。

 今、車の横に居るのは、顔は可愛らしいが冴えない男だが、かつてはその場所に馨が座っていた。

 あの日、泣いた馨に車を山道の脇に止めた。

 少し雨が降っていて。

 馨の肩に手を回し、抱き寄せたが、シートベルトが邪魔だった。

 彼女はこちらの胸に頭を寄せてきた。

 あのときが一番心が近かった気がするな、と思った。

 恋人同士になってからの方がむしろ遠かった。