流行は、アパートの廊下を並んで要と歩いていた。
あのう、とようやく声を出してみたが、要はどう見ても不機嫌だ。
自分が彼女の部屋に潜んでいたからだろうか。
咲田馨と同じ顔の彼女の部屋に男が居たのが気に入らないとか?
と思って窺っていたが、あまりこちらの存在自体、視界に入っていないようだった。
何に対して憤っているのだろうかな、と思う。
しばらくして要が口を開いた。
「死体の入っていた押し入れに居るのと、病院で患者のふりしてるのとどっちがいい」
いや、そりゃまあ、と頭を掻く。
階段を下りたあとで、要は周囲を見回した。
「今まで、『佐野あづさ』を襲撃してくる様子はない。
様子を見ているのか、それとも、あれが本物でないと気づいているのか」
「一体、誰が何故、彼女を殺したんでしょうかね?」
「動機のある人間は居るようで居ないな。
誰も殺さなきゃいけない程追いつめられてはいない」
「あのう。
本当に馨さんを殺されたんですか?」
そう丁寧に訊いてみたが、要は無言だった。



