憑代の柩

 


 上の階に上がると、或る病室の前に、体格のいいスーツ姿の男が居た。

 病室の中を覗いて、ウロウロしている。

「こんにちは」

 そう言うと、男はびくりと振り返った。

「あのときは、すみませんでした」

 彼はかえって申し訳なさそうな顔をしていた。

「私、中に入りたいんですが、いいですか?」

 そう言うと、場所を開けてくれる。

 病室の中には、女が一人眠っていた。

 要も衛も、彼女が目覚めることはもうない思っているだろう。

 枕許に立ち、私は言う。

「こんにちは。
 私の声が聞こえますか?

 いつまで、存在を消されたままでいらっしゃるつもりですか。

 もうすぐ、貴方の愛する衛さんの結婚式ですよ」

 だが、呼びかける私の声にも、眠り姫は目覚めない。