「こんにちは、本田さん」
うわっ、と庭に水を撒いていた本田が声を上げる。
「この間はすみませんでした」
と言う本田に、あー、いやいや、といつも通りの曖昧な返事をして、手を振った。
改めて、言われると気恥ずかしくなるので、やめて欲しいと思った。
「あがっていかれますか?」
と本田は平屋の古い日本家屋を指差す。
「いえ」
と言ったとき、縁側に老婦人が現れた。
「おばあちゃん」
と本田は駆け寄り、縁側に座らせる。
ギリギリの位置まで出て来て、落ちそうだったからだ。
彼女の目は、かなり白濁していた。
甲斐甲斐しく祖母の世話をしている本田の様子を微笑ましく眺めた。
「そういうところが好きだったんでしょうね」
ぼそりと言うと、
「誰がですか?」
と照れたように言うその口調から言って、誰がなのかわかっているようだった。



