憑代の柩

 まだ、確かめたわけでもないことが気になり、一所懸命考える。

「あの、あ、そうだ。

 もしかして、そこに貴方が居たとかっ」

 慌てて出た言葉だったが、男は深く頷いた。

 ……マジですか。

 やばい。

 今、言うべきではなかったな、と思った。

「そこに誰が居たって?」
と戸口に立つ衛が訊いてくる。

「いえその、男の方が、その、霊の方が」

「本物の佐野あづさの関係者が何故、この部屋に?」

 ひとつ息を吐いて、男に問おうとした。

「あの、ちょっとこちらに来ていただいて、その――」

 男は勝手に、すうっと動き、洗面所の方に向かおうとする。

「待って、ちょっと。
 そっちには行かないで」

 だが、幸い、奏の霊は現れないままだった。