憑代の柩

 衛は風呂場の入り口に縋り、腕を組んでいた。

 初めて見たあのときと同じ、自らを守ろうとするように。

 衛はこちらを見ずに言う。

「気づいていて、何故、僕が?」

「彼女が例えば、そうですね。

 年齢的に、馨の妹だったとする。

 その彼女に、貴方は何か負い目があったのではないですか?

 だから、彼女の望むまま、彼女と結婚しようとした」

 衛は溜息をついて言う。

「彼女の名前は、秋川奏(あきかわ かなで)。

 咲田馨の五つ下の妹だ。

 咲田家の両親が破産し、亡くなったあとで、馨はまだ幼かった妹、奏を親族の秋川家に引き取ってもらった。

 秋川の家も傾いていたが、まだ人のいい叔父夫婦が揃っていたからだそうだ。

 馨は秋川の負担になってはいけないと、自分は一人で生計を立てていたそうだ 心配する叔父たちには、自分は天才だから、学校の援助ももらえて、なんとかなると言って」

「……天才なんて、言ってましたか?」

 いや、違う言い方だったかな、と衛は言う。

 雑な教え子だなあ、と思いながら聞いていた。