憑代の柩

 だが、彼の、衛より小さな手を離さずに言った。

「でも、貴方は来なかったんですね」

 ちらと洗面所の方を見ながら言った。

 いつの間にかそこに女が立っていた。

 現れるたび、一心不乱に漁っていたポーチには見向きもせずに、初めてこちらを向き、自分ではなく、本田を見ている。

 私は俯いている彼に訊いた。

「どうして来なかったんですか?

 そこに、あづささんが居ます」

 振り返ろうとする本田を止める。

「あづさは本当は貴方に感謝していて。

 その想いに応えたいと思ってた。

 どうして呼んだとき、来なかったのかと言っていますよ」

 本田は眼を閉じ、
「君が何をしてくれようとしているのかわかっていたから。

 でも、君は僕を好きなわけじゃない。

 そのことも知っていたから」

 君のためでもあるし、僕のためでもある、と言う。

「僕が――

 君を忘れられなくなるから」

 あづさが見えていない彼は、あづさに語りかけるように、自分に話す。

 その瞳に見つめられた。

 本田は同じ顔の自分を抱き寄せる。

 頬に触れて来た彼に言った。