「ご存知でしょうが、私は頭がいいので、一人でやっていけます」
どんな思い上がった台詞だと自分で思ったが、それが一番、彼らにとって、わかりやすい言葉だと知っていた。
最後に両親に作ってもらった着物を着てきていた。
両手をつき、深く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
叔父は頭を下げ返して来た。
「……すまん」
思えば、あのときから既に、叔父の会社の状態は思わしくなかったのだ。
あそこで手を引いておけばよかったのに、社員たちの生活を考え、叔父は最後まで突っ走ってしまった。
塀に沿いながら、坂道を少し降りると、無造作に置かれた瓶(かめ)の上に猫が乗っていた。
「にゃあ」
と話しかけると、
「なにやってるんだ」
という声がする。
見ると、高等部の先輩が立っていた。
「こんにちは」
軽く頭を下げ、通り過ぎた。
「この着物も質屋にでも出すかな」
と呟きながら。
それから長くその先輩とは会わなかった。



