憑代の柩

 衛は否定しなかった。

「貴方はもしかして、何もかもわかってるんじゃないですか?」

 衛は薄い唇を小さく開く。

「お前にもわかっていることがあるんじゃないのか?」

「そうですね」
と私は認める。

「ひとつ、わかっていることならありますよ。

 もちろん、教えませんが」
と微笑むと、お前……と睨まれる。

 素知らぬ顔で他所を見た。

 廊下を歩く紳士が見えた。

 あのとき見たのと同じ男だった。

 衛の目が自分の視線を追ったようだった。

「……呼び止めましょうか」

 彼には、自分が何を見ているのかわかっているような気がして、そう訊いてみた。

 だが、衛は、
「いや―― いい」
と言った。

 そのまま、また自分を抱くように腕を組んでいる。

 彼ほどの人でも、真実を知りたくない気持ちとかあるのかな、と思った。