憑代の柩


 

「だから――

 俺のことも信用してないんだろうよ」

 偽のあづさの部屋の外。

 細い身体で壁に縋り、衛は彼女と要の会話を聞いていた。

 病院とはいっても、此処は一般の病棟とは別の棟(むね)になっている。

 御剣一族や、そこから紹介を受けた者しか入院できない。

 人間ドッグや糖尿病の治療などのために、豪奢な部屋が用意してあったり、そっと整形やアンチエイジングをしたい者のために隔離された部屋がある。

 なので、あまり人気はないはずの廊下を歩いてくる気配がした。

 充分窓からの明かりは足りているはずなのに、何故か薄暗く感じる廊下を歩いて、衛の許に、スーツ姿の若い男がやってきた。

 顔立ちは可愛らしい感じだが、長身で体格がいいせいか、精悍なという印象が強い。

「衛」

 そう呼びかけてくる彼に、壁から身を起こし言った。

「花嫁が目を覚ましたぞ。
 なんでも聞いてくれ。

 まあ、ちょっと記憶がないようではあるんだが」

 素っ気なく言ったその言葉に、彼は溜息をつく。