憑代の柩

 人影はそこにはないが。

「そうですね。
 今、なんだか助けていただいたことですし。

 貴方には訊きたいこともあるので」

 とりあえず、ありがとうございます、と言ったあとで言った。

「おっしゃる通り、私は、佐野あづさではないです。

 ところで、本田さん、貴方はあづささんの恋人だったんですか?

 だから、わずかな違いにも気がついたのではないですか?」
と訊くと、

「全然わずかじゃないよ」
と呆れたように本田は言う。 

 ひんやりと冷たい校舎の影で、眉根を寄せて、本田は言ってくる。

「よく今までバレなかったね?」

「あ~、それが、あづささんって、一匹狼だったみたいで。

 他の人には近寄らなくても不自然ではなかったようなので、助かりました。

 私も調べたいことがあって、うろうろしていたので、一人の方がよかったですし。

 ああ――
 一人じゃないか」

 麻紀がこちらに飛んで来るのが見えた。