憑代の柩

「お前が怒るところじゃないだろう。

 別に一緒に居るだけでもいいんじゃないのか? 好きなら」

「まあ――
 そういう考え方は嫌いじゃないですけど」

「昔、家庭教師がそういう物の考え方だったんで、洗脳されたのかもしれないな」

「例の家庭教師の先生ですか?
 本当に変わった方だったんですね」

 そうだな、と珍しく衛は本気でおかしそうに笑っていた。 

 なんなんだ、と思いながらも、気づいていた。

 その家庭教師の話をするときだけ、衛の中にある張りつめた感じが消えていることに。

「……衛さん、もしかして、その先生のこと、お好きでした?」

 衛はその言葉に笑いを止める。

 ちょっとヤバイところに触れてしまったかもしれないと身構える。

 衛は間を置いたあとで、
「そんなことはない」
とだけ言った。

 車はまたあの川原の側を通っていて、今、言った台詞を後悔しながら、窓の外を見た。