「幸せだったことでも、つらかったことでも、何でもいい。真尋の話を聞かせて」


真尋の記憶の欠片に触れたい。

まだこの穏やかな時間を終わらせたくない。


「……知ったってつまんねぇだろ」

「そんなことない。私は聞いてみたいよ」


食い下がる私に、真尋は呆れたように息を吐いてからゆっくりと口を開いた。

穏やかな声で紡がれたのは、保育園の頃の話。



同じ学年の“リュウ”という男の子とよく衝突していたこと。

担任だった“ハルカせんせい”が、途中で産休に入ってしまったこと。

真尋は記憶の糸を手繰り寄せて、ぽつぽつと言葉をこぼすように語ってくれた。


静かで穏やかな時間がそこに流れる。

雨音と真尋の低い声を聞きながら、夜は更けていった。