それを愛と呼ぶのなら

駆け足で私達を抜かした小学校低学年くらいの男の子が駆け寄っていったのは、長テーブルの前。

確かに、係の人が何かを配布しているようだった。


近付いて覗き込んでみると、そこには5色の笹舟。


「それぞれに意味があるんですよ」


と、長テーブルの前に座る40代くらいのスタッフの女性が言う。


「緑は健康や安全、青は決断や感性を磨くこと、赤は仕事や勝負の運、ピンクは恋愛や結婚、オレンジは新しいことへの挑戦やったりとか、子宝……ってね。お客さんらやったら、ピンクかな?」


私と真尋を交互に見た彼女は、明るい笑顔のままピンクの笹舟に手を伸ばす。

だけど、


「いえ」


目を伏せて小さく首を振った私は、迷うことなくオレンジ色の笹舟を手に取った。

そんな私を見た彼女は目を見開く。


「子宝?」

「あはは、まさか。新しいことへの挑戦、ですよ」


笹舟を一枚受け取り、ありがとうございますとだけ言い残してその場を去る。

隣を歩く真尋の手に在るのは、さっきと変わらない買い物袋だけ。


「真尋は良かったの?貰わなくて」

「あぁ。こんなんして喜ぶような柄でもねえしな」

「悪かったわね、喜ぶような柄で」