聞いてはいけないと頭の中で警報音がけたたましく鳴り響いているのに、足が竦んで動かない。


「仕方ないわねー。いつもの場所でいいんでしょ?……えぇ、じゃあお風呂だけ入ってから行くわね」


会話が終わる気配がして、私の足は一気に軽くなった。慌てて風呂場とは逆方向の和室へと駆け込む。

微かな音は、どうやら雨の音が搔き消してくれたらしい。


少しして、風呂場の方から雨とは違う水音が聞こえてきた。


極力音をたてないようにし、和室を出てリビングの扉を開く。

テレビの前のローテーブルには、画面が表示されたままのお母さんのケータイ。


「……」


まるで吸い寄せられるかのようにそれを手に取り、周りを確認する。お母さんが戻ってくる様子はない。