今日からここで営まれる生活も、ありふれたものであればいい。


「葵」

「ん?」

「どこか行きたいとこある?」


真尋の問いかけに、考えを巡らせる。

生まれて初めて大阪に来たんだもん。行きたいところは数え切れないくらいあるよ。

でも。


「今日はゆっくりしよう。移動で疲れたでしょ」

「そうだな。後で買い物だけ行こう」


瞬時に一致した意見に、私達はソファーに腰を下ろした。

流れる沈黙。時計の針の音だけが、静穏な空間に響く。

隣に座る真尋に気付かれないように視線を向けると、彼は目を伏せて物思いに耽っているようだった。


真尋は、お母さんの不倫相手の息子。それは恐らく、紛れもない事実なんだと思う。

だけど彼にとって、私もまた同様に父親の恋人の娘であり、父親とその恋人の関係性は、決して無垢なものではなくて。

夢みたいな現実を、知ってしまったからといって、すぐに自己処理出来るはずがない。

彼もまた複雑な思いを抱えて、ここにいるんだろう。


「大阪って何があったっけ」

「通天閣とかじゃねーの?」