それは、もうここには戻らないという決意の表れ。


手にしていたものを棄てていくことに対して抵抗や迷いなんて微塵もなくて、いかに自分が空っぽだったかを思い知らされた。




「葵。もう着くぞ」


肩を揺らされ、意識が一気に現実に戻る。

重い体を起こして窓の外を見ると、東京とはすっかり違う景色が広がっていた。


「……お腹空いた」

「んじゃ先に飯にすっか」

「ほんと?私、ハンバーグ食べたい」


私のリクエストに、真尋は少しだけ目を丸くする。


「何」

「……見た目大人っぽいくせに、わりと子どもっぽいとこもあるんだなって、ちょっと、意外だった」


“意外”。そのひと言が、私の胸を掻き立てた。

少しの不安を胸に、乗車券の確認をする真尋に問い返す。


「……おかしい?」

「いや……変に気取ってなくていいんじゃね」


想像とは違う、私が望んでいた答えに、ホッと胸を撫で下ろした。




『新大阪──』


キャリーバッグを引いて新幹線を降りると、むしむしとした空気が私達を包んだ。