や、やっちゃった。

前見てなかった……。


「すみません!」


慌ててその場にしゃがみ込み、資料やペンを搔き集める。

ネイビーのスーツが視界の端に現れ、同じように散らばった物を拾い始めた。


「すみません、ありがとうございます……」

「いえ」


低い声が短く答える。


駄目だなぁ、私。

もっと頑張らなきゃいけないのに。

あの男に恥じない自分でいたいのに。


「葵さん、大丈夫ですかぁ?」


自分の荷物を床に置いて、妃名子も参加してくれる。

その時、資料を拾い集めていた大きな手がピクッと反応した。


「あお……い……?」


他の音が世界から消えてしまったんじゃないかって思うほど、その声は鮮明に耳に届いた。

ドクドクと、心臓が早鐘を打ち始める。


嘘よ。

こんな偶然、あるはずない。