ありがとう、真尋。

鉄格子の鳥かごの中から連れ出してくれて。

知らない感情を引き出してくれて。

私自身を受け入れてくれて……。

ひとつひとつ挙げればキリないね。

真尋には、感謝してもしきれないよ。


忘れたくないの。

真尋と過ごした時間が確かに存在したことも、たったひとりを大切に思ったことも。

真尋がくれたものの全てを、私は死んでも忘れたくない。

忘れない──。




この上なく重い瞼を無理矢理持ち上げる。

ぼんやりと映る視界。

雨が窓を打つ音が、どこか遠くで聞こえるような気がした。


「……ん」


気怠く重い体をゆっくりと起こす。

隣に、真尋の姿はない。


「……」


洗面所の方から、かすかに物音がする。

多分、真尋は私より先に起きたのだろう。


寝ぼけなまこのまま、ベッドの下に散らばる下着を手繰り寄せ、それを着ける。

昨晩真尋が着ていた大きめのシャツがベッドに置かれているのを見つけ、細身のスウェットを着るのも面倒だったので、勝手に拝借した。