「まひ……っ」


不倫とか復讐とか、そういう汚い感情なんて縁のないような、無垢なふたりでいたかった。


お願い、神様。

来世ではどうか、私達をただの男と女として出会わせてください。

共に命を絶つ約束なんてせずとも、一緒にいられるように。


「……ふっ」


息が上がる。

もう駄目──そう思った時。


「葵」


真尋の切羽詰まったような声が、私の名前を呼んだ。

嬉しくて、それに応えようと、涙を止められないでいる目元を拭い──息を飲んだ。


「……ごめんな」


謝罪の言葉を口にした真尋の目に、光るものがあったから。

それは、世間でもてはやされている俳優の涙より……ううん、今まで見たどの涙よりも綺麗で、儚くて。

お母さんと再会した時でさえ、この人は笑っていたのに。


「お前のこと……大事で、ごめん」


その言葉がどんな意味を持っているのか、私には理解することができなくて。

真意を訊ねようとしても、体を駆け巡る痺れがそれを赦さなかった。