それを愛と呼ぶのなら

耳を塞いでしまえたら、どれだけ楽だったろう。

なのに、体は鉛みたいに重くて、喉の奥が焼けるように熱くて。一番拾いたくない言葉を、この耳が拾ってしまう。


「最後に会えてよかったよ。……元気で」


切れ長の目を細めて、くしゃっと笑って。

遂には涙を流した母親に、再び背を向けた真尋。

夏の嫌な風が、私達3人の間を通り抜けていく。


「真尋っ」


慌ててその背中を追いかけたけれど、真尋が振り向くことも、声を発することもなかった。




マンションに戻った時には、既に日は落ちていた。

冷蔵庫の中にあった食材で簡単な料理を作り、テーブルを囲んだけれど、特に会話は生まれず。

明日は雨だとか借りたDVDの返却日だとか、そういう当たり障りのない話をしたくらい。


洗い物を終え、並んでテレビを眺めている今も、微妙な空気が漂っている。


「……悪かったな、付き合わせて」


長い間流れた沈黙を破ったのは、意外にも真尋の方だった。

隣に座る真尋に視線を向けるけど、当の本人は真っ直ぐにテレビを見たまま。


「……行けって言ったの、私だから」