それを愛と呼ぶのなら

「ちょ……ちょっと! 真尋!?」


予想外の出来事に、思わず声を張り上げてしまう。

なんで。実の母親が、そこにいるのに。手が届く距離にいるのに……。


「待ってよ!」

「……」

「待ってってば!」


半ば強引に腕を引いたところで、ようやく真尋の足が歩みを止めた。

それでも、彼はこちらを見ようともしない。


「ここまで来て……なんで逃げるの」

「……言ってただろ、会わねえって」

「それはお母さんのことを思ってでしょ?あんたの気持ちはどうなのよ」


ぐっと、真尋の腕を握る手に力が入る。

だってこのままじゃ、きっと後悔する。

最後に会っておけばよかったって、思う瞬間が絶対訪れる。


「俺は別に──」

「──真尋!?」


私じゃない声が、彼の名前を呼んだ。

落ち着いた雰囲気の、綺麗な女の人の声だった。