まるで自覚はなかった。

私がそんなに嬉しそうな顔をしていたことなんて。

他人に気づかれるほど、表情に出ていたなんて。

でも、もし私がカナに分かるほど嬉しそうな顔をしてるのなら、その理由は、みんなで晩ご飯を食べたこと以外にある。


『ねえ、またここに来てよ。俺、またみーちゃんと話したいし』

『友達じゃないの?』


きっと、あのひとに会ったから。

友達になったから。

適当で、ヘラヘラしてて、むかつくけど。

幼馴染ではない。クラスメイトではない。

もっと別の、ずっとあこがれていたカタチ。

私に初めてできた、『友達』。


ハル。


屋上に行けば会える、風みたいなひと。





いつもの標識でカナと別れる。


「朝練頑張って」

「またあとで」

カナは自転車にまたがると風を切って走っていた。

いつものように遠ざかるカナの後ろ姿を見つめながら、学校を目指して歩く。

いつもと同じだけど、少しだけ気持ちは違った。

学校に行くことを、授業を受けることを、今まで何も思わなかった。

辛いとも、苦しいとも、楽しいとも、何とも思わなかった。


でも、今は違う。


今日の昼も屋上に行けば会えるだろうか。

そんなことを思って、気持ちがふわりとあったかくなる。