きみに触れられない

「そうじゃなくて、これもお父さんに持って行くの?」

「お父さんもお疲れだからね、甘いもので疲れをとってもらわないと」

やさしい顔をして笑うお母さんはとても可愛かった。

ああ、お父さんが好きなんだって伝わってくる。

何年も夫婦をやっていてときたま喧嘩することもあるし、仕事が忙しくて3日も顔を見れない時だって日常茶飯事だけど、それでもちゃんと愛してるんだと伝わってくる。

「お父さんに言っとくことは?」

「『無茶しないでね』」

お母さんはお茶目に微笑んだ。

それを見て私の心も少し軽くなった。





手提げにケータイと財布、茶封筒とお菓子をいれて家を出る。

大分陽は傾いて、街は茜に染められていく。

西の空ははちみつのようなオレンジ色だけど、そこから真上に、そして東へと視線を逸らしていくと、オレンジ、茜、紫、青と空は美しい色で彩られていた。

東の空にはもう星が瞬いていて、白く輝いていた。


お父さんの勤める病院には数えきれないほど通った。

どこか怪我をした、病気にかかった、というわけではなく、遊ぶために。

お父さんの勤める病院はこの街ではいちばんに大きくて、その分敷地も広い。

病院内にある公園でよく遊んでいた。