きみに触れられない

「ミサー!」

下からお母さんの声が聞こえる。

「なにー?」

自室を出て階段を見下ろすと、お母さんが「ちょっとお手伝いしてくれるー?」と呼んでいた。

階段を降りると、「悪いわね」とお母さんは謝った。その手にはケータイ電話が握られていた。

「いいけど、何を手伝えばいいの?」

「実はお父さんが、自分の部屋に仕事で使う資料忘れてきちゃったんだって。今すぐ届けてほしいらしいの。
ミサ、届けに行ってくれる?」

「うん、いいよ」

これはとてもタイミングが良かった。

お手伝いをしていればきっと、ハルのことを思い出さなくて済む。

「で、届けるものはどこに?」

「お父さんの部屋の机の上にある茶封筒らしいわ。ああ、そうだ、ミサがお父さんとこに行ってもらえるなら、ついでにあれも持っていってもらおう」

そう言い残すとお母さんはキッチンに戻って何か小さな紙箱を持ってきた。

「なに、これ?」

「なにって、チョコに決まってるじゃない」

お母さんはきょとんとした表情をしていた。