次の日も、私とカナは一緒に登校していた。

いつもと同じように、どうでもうい、他愛もない、とりとめもない話をしながら。

少しだけ気になったことがあると言えば、カナの表情がいつもより暗いことだった。

固い表情のまま、前を見据えている。


「…カナ、どうしたの?」

「え?」

カナは心底驚いた顔で私の方を見るとまた前を向いた。


「カナ、辛そうだから」


カナが私のことを分かるように、私もカナのことは分かる。

カナの家族の他で、カナのことをいちばんに分かってる自信はある。

だてに年齢分カナと幼なじみをやってきたわけじゃない。


「やっぱミサには隠すのムリか」

カナは笑った。

その笑顔は辛そうで、見ているこちらまで辛くなる。


「何があったの」


するとカナは少し間を置いて話しだした。


「俺さ、中学校のときからお世話になってる先輩がいるんだ。

その人が俺を可愛がってくれて、たくさん練習に付き合ってくれたし、たくさん教えてもらった。

先輩のおかげで強くなれた。

先輩はすごく強くて絶対敵わないような人だけど、すっごい優しくてさ」


本当に、尊敬する先輩なんだ。


カナが呟いた最後の言葉が、すごく重かった。

その言葉にどれだけの想いがこめられているのか、きっと私には想像つかない。

ただ、カナにとってとても大切なひとだということだけが分かった。