【相馬 樹生(そうま いつき)】



そこには彼の名前と彼の携帯番号らしいもの。


そして【6時45分、一両目】という言葉が、綺麗な字で書かれていて───



「キミが乗る時間の電車は、一両目なら比較的空いてるんだよ」


「(……え、)」


「今日乗ってた車両は、階段から一番近い場所でしょ?だから、あんなに混んでるんだけど、一両目は意外に空いてる。あ、あと、一番後ろも」



“でも、一両目まで歩くの面倒くさいから、いつもあそこに乗ってたんだけど”、と。


優しい声色でそう言う彼の真意がわからずに、私はただただその綺麗な顔を見上げていた。



「……明日からは、俺も一両目に乗るよ」


「(……っ、)」


「歩くの、面倒くさいけどね?」



だけど、そう言っておどけた様に笑った彼を見て。


彼の教えてくれた内容と彼の言葉が、私を心配してのことだと、すぐに理解した。


……すぐに、わかったから。


「……っ、」


思わず、喉の奥に何かが詰まったような感覚に襲われて、鼻の奥がツン、と痛んだ。