水男(ミズオ)

「もしもし……」


高山が電話に出ても
相手は答えなかった。


ざわざわとした人の声と
うっすらと駅のアナウンスのような声が

スマホから聞こえてくる。


そして高山は


駅の端にある受話器の外れた
公衆電話を見つけて


ため息をついた。


公衆電話の受話器を元に戻すと
高山の着信も切れてしまった。


いったい誰がこんないたずらを……


あとをつける高山の気をそらすために
誰かが公衆電話からかけたんだろうか?


見慣れない公衆電話からの着信なら
誰もが怪しんで画面を見てしまうだろう。


画面を見ている間に
亜美を見失わせようとしたのか?


いったい誰が?


まさか俊介か?
それとも平野?


胸騒ぎの収まらない高山の頭の中は
爆発しそうになっていた。


とにかく亜美が危ない目に合いそうな
予感がしてならない。


高山はそう考えると
走りださずにはいられなかった。


駅の中を走って亜美を探すが
もちろん見つからない。


こんなたくさんの人がいる駅の中で
亜美を見つけるのは


砂浜の中で一粒の真珠を
見つけるようなものだ。


やがて走るのをやめた高山は
荒い息を吐いて壁にもたれた。



「もしかしたら……」


高山はつぶやく。